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福岡高等裁判所 昭和32年(ラ)113号 決定 1958年2月10日

抗告人 大野サヱ

相手方 森タミ子

主文

原審判を左のとおり変更する。

一、別紙目録記載の第一、第二、第三の各不動産は、これを抗告人及び相手方の持分各二分の一の共有とする。

二、同目録記載の第四、第五の各不動産に対する被相続人田口トシの持分権は、これを抗告人の権利とする。

三、同目録記載の第六、第七の各債権は、これを抗告人の権利とする。

四、抗告人は相手方に対し金三万五千円を支払わなければならない。

理由

抗告人の本件抗告理由の要旨は「原審判には左記のとおり事実誤認がある。すなわち(一)相手方森タミ子は被相続人田口トシの次女であつて、右トシの遺産相続を放棄しているにかかわらず本件遺産分割の申立をしたのは、岩井太郎の策謀によるものである。しかるに原審判が右トシの遺産に対し相手方及び抗告人の相続分を各二分の一と認めて分割したのは失当である。(二)原審判が右田口トシの遺産と認定している原審判添付遺産目録記載の第一ないし第五の不動産は、右トシにおいて生前鶴岡辰二に売却したものである。従つて右不動産はトシの遺産に計上し得ないものである。(三)原審判が右トシの遺産と認定している原審判添付遺産目録記載の第六の貸金債権は抗告人の固有財産であるから、これを右トシの遺産と認定したのは失当である。(四)同遺産目録記載の第七の無尽講債権は抗告人において支払を受けたが、右受領金はすでに抗告人の固有財産と混合せられているにかかわらず前記貸金債権と共に遺産に加算して抗告人に対し金四一、〇〇〇円の支払を命じた原審判は不当である。以上の理由により原審判に不服であるから本件抗告に及ぶ次第である。」というのである。

よつて審按するに、被相続人田口トシが昭和二八年七月○日死亡したこと、右トシ死亡当時同人の相続人はその長女相手方及び三女抗告人の二名であることは、田口庄吉、田口幸男、田口虎次、田口トシ、大原右門の各除籍謄本、森綱市、大野文夫の各戸籍謄本により明らかであるの抗告人は相手方は右トシの遺産相続を放棄したものであると主張するが、右事実を認め得る資料はないから、右トシの遺産は相手方及び抗告人の両名において相続分各二分の一で共同相続をしたものといわなければならない。

そこで、右トシの遺産について検討する。

本件記録編綴の各不動産登記簿抄本、榎本淳名義の領収証、中田ハル名義の貸金と題する書面、遠藤浩三名義の証明書、原審における上山政治、真下喜一、山崎晃、榎本淳、有川サヨ子、野原千代、大原カズに対する審問の結果、当審における相手方森タミ子審尋の結果によると、被相続人田口トシの遺産は別紙目録記載の第一ないし第七の不動産及び債権であることが認められる。原審判添付遺産目録記載の第三の建物中木造瓦葺平家建住家一棟建坪二五坪五合は被相続人トシがその生存中に榎本淳に売却したものであることは前記榎本淳及び相手方の各供述により明らかであるから、右建物一棟はこれを遺産として計上し得ないものというべく、前示山崎晃及び相手方の各供述によると、同遺産目録記載の第四第五の原野及び山林はトシが山崎晃と共有していたものであることが認められるから、他に特段の事情のない限り右共有持分は各二分の一と推認せられるので、右原野及び山林の遺産はその二分の一の持分権であるといわなければならない。ところで抗告人は、右不動産はすべてトシがその生存中に鶴岡辰二に売却したものであると主張するが、これに副う当審における大野文夫の審尋の結果だけではいまだ右主張事実を首肯するに足りない。他に右事実を肯認し得る証拠はないから、抗告人の右主張事実は採用し得ない。さらに抗告人は、前記第六の貸金債権は、抗告人の個有財産であると主張するが、右事実を認め得る証拠はない。

そして前示山崎晃の供述によると、別紙目録記載の第四第五の原野及び山林は時価三万円と認められるから、その二分の一の持分権の価格は金一五、〇〇〇円と認定すべく、前示遠藤浩三名義の証明書及び有川サヨ子の供述によると、別紙目録記載第七の講債権一五、〇〇〇円については右トシ死亡後抗告人において右金一五、〇〇〇円の支払を受けていることが認められる。

そこで以上認定の事実に、抗告人及び相手方の住所、前記不動産の所在場所、その他一切の事情を考慮し、別紙目録記載の第一、第二、第三の宅地、建物はこれを抗告人及び相手方の持分各二分の一の共有とし、同目録記載の第四、第五の原野及び山林に対する被相続人田口トシの持分権、及び第六、第七の各債権は、これを抗告人の単独の権利とすると共に右原野及び山林の持分権の価格一五、〇〇〇円、貸金債権四〇、〇〇〇円、講債権一五、〇〇〇円合計金七〇、〇〇〇の二分の一に相当する金三五、〇〇〇円を抗告人から相手方に支払わせるを相当とする。

よつて右と異なる原審判はこれを変更することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 竹下利之右衛門 裁判官 小西信三 裁判官 岩永金次郎)

別紙目録<省略>

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